2022年11月「未来は・・・」
日中の気温は昨日と変わりないのに、朝夕は空気が凛とした風となり頬を撫ぜていく。影法師は日ごとに長くなり、路地に枯れ葉が舞い始めている。子供の頃は、この秋という季節が嫌いだった。学校の行事も運動会や遠足などいろいろあり、集団活動が苦手だった私は、早く秋が過ぎて冬にならないかと寒い冬を心待ちにしていた。当時、こんな言葉があった。「大人は火の子、子供は風の子」大人は炬燵に入り、ストーブで手を温め、子供は寒風に向かって遊んでいる。だから子供は元気なんだと思っていた。周りでは子供の数がどんどん増えて行った。
中学校に入学すると、1学年11クラスもあった。その頃、わが国の総人口が1億人を越えた。子供ながらもこの国は活気があり、発展していく国だと思っていた。事実、一時はJapan as number oneと言われる国となった。しかし、2008年に人口ピークを迎えたあと、人口は下降曲線に入った。人口減少問題が様々なところで論じられるようになって既に久しいが、このニュースを聞いて驚いた。
「今年の中国の大卒の人数が約1000万人を越えた」という。わが国の今年の卒業生は約50万人である。中国はわが国の約11.5倍の人口であるから、日本とは比べ物にならないが、大卒の数だけ見ても約20倍の開きがある。国力は、教育を受けた人数が大きいほどその力を増すことは、誰の眼にも明らかである。インドもまた学生数で3億人を越える大国であり、中国を含め将来は間違いなく国際関係の中心となる国であろう。
一方でわが国は、人口減少の一途をたどり、2053年には1億人を割ってしまうという。その時の労働人口は現在から25%ダウンし、5200万人まで減少する。その先に待っているシナリオは、大国の狭間で揺さぶられながら衰退する小さな国である。
政府も少子化対策にさまざま施策をしているが、これという効果は出ていない。むしろそれよりも、経済成長に力を入れている。それも重要なことではあるが国家の根本的課題は人口減少ではないかと思う。人が減れば、市場も衰退する。市場が小さくなれば、ものづくりや物流も減少し、やがて国家として衰退してゆく。
現在、”新しい資本主義”と銘打った政策の中で、科学技術イノベーションやカーボンニュートラルの実現、加えて経済安全保障という成長戦略が実施されているが、人口問題・少子化対策は論じられていない。
フランスがかつてドイツとの戦争に負けた原因は、人口規模が小さいことであることを自覚し、少子化対策に国を挙げて取り組んだ結果、出生率2.0にまで回復し、国家としての健全性を保っている。スウェーデンも100年前にヨーロッパの中で出生率が最低となり、徹底的に出産・育児・教育を国が支える仕組みを作り人口構成は回復している。わが国と同様な形態から人口減少が起きていたドイツも2000年代初頭に「政策の大転換」をおこない、確実に出生率を上げている。わが国も先例から学び、衰退する国家としてのシナリオだけは止めて欲しいものである。
この国の未来は・・・。
2022年11月1日