2022年12月「8インチを眺めながら」
煎れたばかりの珈琲カップから湯気が立ち上っていた。その横では「カシャ・カシャカシャ」「カシャ・カシャカシャ」と和文タイプライターがリズミカルな音を立てている。当事務所の40余年前の風景である。依頼を受けた書類の原稿を作成し、その原稿を元にタイプをしていくのである。まだ、世の中の大半が手書きの書類であった。
依頼者に喜んでいただけるのは綺麗にタイプ打ちした書類だと考え、ひたすら打ち込んでいたものである。しかし、出来上がった書類を見直すと誤字脱字がみつかる。そのたびに最初から打ち直しである。そこにコンピュータが登場した。小型のオフィスコンピュータ(パソコンではない)である。これなら作った書類を保存・修正できる。
開業間もない頃、資金繰りも厳しかったが、無理をして7年間のローンを組み、コンピュータを導入した。データ保存は主に8インチのフロッピーディスクであった。容量は80キロバイトである。今や2テラバイトのUSBが安価で売られていることを思うとまさに隔世の感がある。
そして7年間のローンが終わらないうちにワープロなるものが出てきたと思ったら、パソコンの出現。インターネットの普及である。1980年代の終わりごろには、日本は世界で最大の半導体の生産国であったことから、国産メーカーのパソコンがすさまじい勢いで普及していった。
電子立国という言葉が巷にあふれていた。2000年を過ぎた頃から我々の仕事も将来は電子申請になると言われ、その準備が加速していった。当事務所も国交省のインターネット一元受付のテスト事業所に選ばれ3年ほどテスト申請に参加していた。やがて所得税等の確定申告が始まり多くの申告はEタックスとなり、社会保険・労働保険の申請も電子化されていった。
しかしながら、未だアナログな紙申請の手続きも多い。建設業許可に関する電子申請も来年からやっと始まるが、私の予想からは10年以上遅れたように思う。政府は、IT戦略としての「世界最先端デジタル国家創造宣言」を元にデジタル化を進めようとしている。
国と地方には温度差もあり、難しい側面もあるだろうが、それにしても遅いと思う。行政の様々な分野での手続きが電子化することによって国民や事業所の負担は減少し、余剰時間が生まれる。それは新しいものを創造するためにも必要なことである。資源が乏しく人口が減少している我が国は常に新しく付加価値のあるものを創造しなければ衰退することは必定である。
特に人口減少に合った国のグランドデザインが求められている。そのためにも本当の意味での電子立国を早急に目指す必要があると思う。半導体生産世界トップを誇った我が国のメーカーの多くが半導体から撤退。半導体不足は今日の産業構造や商流。更には我々の生活に大きな影響を与えている。”産業の米”と言われる半導体を手放してしまったツケが回ってきている。
デジタル化の進展により「労働」「教育」「医療」「金融」「資本主義」「国家」等々はどのように変化していくのか?大きく言えば日本はどう変わっていくのか?
未来は手探りの中にある。しかし、デジタル化が遅れることにより変化についていけないほうが更に未来を混沌とさせるものになるであろう。半導体の二の舞だけは避けたいものである。
ちなみに、総務省が昨年発表した「世界電子政府ランキング」では、日本は第14位であり、とても世界最先端デジタル国家とは呼べないものである。
冷めてしまったしまった珈琲を横に、当事務所が40余年前にデジタル化した8インチを眺めながら思う・・・。
2022年12月1日
Photo by kishimoto(写真は当時の8インチFD)