2023年9月「Stay Hungry, Stay Foolish」
パソコンを打っている横で、テレビのニュースが流れている。しかし、テレビを見ているわけではない。在宅勤務である。おかしな話だが、コロナ感染症が下火になってから在宅勤務を始めた。私は、子供のころから変な癖があって、自分の部屋で勉強するのが苦手で、家族のいる居間で勉強するほうが集中できた。だから今でも本を読んだりパソコン作業をするときは、居間でテレビやラジオを付けている。在宅勤務は、やってみると結構仕事の能率もアップする。と、言っても週に1回ぐらいの頻度ではあるが…。話を元に戻そう。
テレビの音声から「富士山登山」の声が聞こえた。キーボードを打つ手を止めてテレビをみた。登山者がごみを持ち帰らず、あちこちに捨てていくことが問題となっているというニュースであった。山頂の映像を見ていて、私はごみの問題に顔をしかめつつも富士山測候所の白いドームがあった頃の山頂を懐かしく思い出した。
あの白いドームは、20世紀のレオナルドダヴィンチと言われた米国の建築家・思想家であるバックミンスター・フラーの設計である。正三角形を組み合わせて多面体を作りあげていく。強度に優れた工法として世界中で、様々なものが建設された。また、フラーは、「宇宙船地球号」という思想でも知られている。高校生のころ、「宇宙船地球号」と聞いた時には眼が覚めるようなショックを受けた。人類は「宇宙船地球号」に乗っている乗組員である。従って、船の中での争いごとは船そのものを破壊しかねない。紛争や戦争は自らを破壊することであると。また新聞の一面に「ミサイル増産」「武器供与」「軍備拡張」等々、きな臭い文字が躍るようになった。フラーは、来るべき未来を、見ていたのかもしれない。
そんなフラーに表題の言葉「Stay Hungry, Stay Foolish」がある。これは、フラーの思想を基に米国で20世紀中ごろから20世紀末まで発刊された“ホールアースカタログ”という若者向けの雑誌の最終号に寄せられたフラーの言葉である。直訳すれば、“ハングリー精神を忘れるな、成熟するな、愚かであれ”とでも言うのだろうか?
その読者の中に若きスティーブ・ジョブズもいたという。そして年月が流れ、癌で余命いくばくもなかったジョブズがスタンフォード大学の卒業式のスピーチで「君たちの時間は限られている」「人の言いなりになって生きてはいけない」「心の直感を信じなさい」と話した後で、フラーの言葉「Stay Hungry, Stay Foolish」を卒業生に伝えた。多くの人にかみしめてもらいたい言葉である。訳はそれぞれが考えればいい。
私は、 “Stay Hungry欲を捨てるな、 Stay Foolish青臭く”と解釈して更なるものに向かいたい。空を駆ける竜雲のように・・・。
2023年9月1日
photo by kishimoto