2025年1月「冬あけぼの」

 脚もとを踏みしめて石段を登る。石段は、不揃いである。薄明りのなかでは注意深く登らなければならない。首にはマフラー、ダウンのコート。帽子を被り完全防寒を決め込んで石段を登る。手袋の下で手がかじかんでいる。冬曙の空に、帰りそびれた既朔が浮かんでいる。

 冬曙(ふゆあけぼの)好きな言葉である。「春はあけぼの」で始まる有名な随筆があるが、春のあけぼのは、なんとなく倦怠感を感じるのであるが、冬あけぼのは、頬を風が刺していく感覚。凛とした空気。ひと気のない路を歩く。この時間が好きである。白い息を吐きながら、城址を目指して石段を登る。

 視線の片隅に人影がよぎる。誰もいない城址を独り占めしようと登ってきた。しかし、誰かがいる。高見にある“富士見台”に上って下を見る。人影は見えない。ここは、日の出の絶好ポイント。なぜ、手を合わせるか考えたこともないが昇りくる朝陽に手を合わせる。

 城址を出て脚は繁華街に向かう。喧噪の終わった後の繁華街を歩くのも好きだ。ふと、眼を向こうの交差点に向ける。城跡で見た人影が商店街を抜けてゆく。

 赤いジャンパー、グレーのキャップの下で揺れるポニーテール。私より少し低い背格好である。朝の繁華街は、ひと気はないが、ごみ収集車と空瓶を回収する酒屋の車がエンジン音を響かせながら走っている。朝帰りの酔客を狙っているタクシーも停車している。

 ごみ収集車の遥か向こうに人影が見える。繁華街の片隅に小さな神社がある。なぜか私は、神社の前を通り過ぎることができない。まして年の初めだから尚更素通りはできない。柏手を打ち、鳥居を抜けて家路を急ぐ。

 大通りを渡る地下道の手前で躊躇した。地下道を行けば住まいまで早いが、右膝が少し痛む。少し離れた横断歩道を渡ることにした。横断歩道は、片側三車線の道路にかかる横断歩道である。信号待ちが長い。

 見上げると陽は高く昇り、冬枯れの空に、雲ひとつない青空が広がっている。信号が青に変わり歩き出す。前方から突然、赤い人影が近づいてくる。なぜか急にドキドキ胸が高鳴る。横断歩道の真ん中あたりですれ違う瞬間、その面差しが見えた。そこには絶世の……。そこで、目が覚めた。これが今年の初夢か……

2025年1月1日

phot by kishimoto

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