不安はウィルスより早く蔓延する
この風景はいつか見たような気がする。多くの人で賑わう街中にも、ホテルにも、電車の中にもひと気が少ない。こんな風景をいつ見たのだろう。記憶の糸を手繰り寄せ思い起こす。
一度目は、昭和天皇が崩御された年である。崩御された日のことは今でも鮮明に記憶している。1989年1月7日土曜日であった。当時は、まだ週休二日制ではなく、土曜日は半日出勤であった。
しかし、政府から民間企業は2日間喪に服すようにというような話があり多くの企業は休んでいた。しかしながら、私どもの業務は繁忙期にあり、事務所全員が出勤していた。繁忙期にも関わらず電話が鳴ることもなかった。早めに事務所を出て寒くて冷たい雨が降る中を帰った。灰色の街の中、すれ違う車もなかった。
二度目は、2011年3月12日である。この日も土曜日であり同じような冷たい雨が降っていた。あの東日本を襲った東日本大震災の翌日である。顧問先企業と打合せの約束が入っていたので、企業に向かった。同じような灰色の景色であった。行き交う人もなく、ラジオから刻々と入ってくる被害状況に戦慄を覚えたものであった。
これらの灰色の景色の後、日本中が一斉に自粛モードに入った。様々なイベントや各地のお祭り、スポーツ競技等が中止や延期となった。 今回の新型ウィルス感染でも同様の自粛が起きている。先月のコラムで、「拡散の速度が速い。どちらにしても株価にまで大きな影響が出ている。」と書いたが、その時の想像以上に拡散するスピードが増し、株価は暴落し続け、パンデミックが近づいているという。
ニュースのトップは毎日、新型ウィルスのことであり、様々な情報が飛び交う。 “世界人口の70%が感染する” “感染者○○○○人に増大” “出入国禁止” “不要不急の外出自粛“ ”オリンピック中止“ ”致死率が増大化“ ”新型ウィルスは細菌兵器説“まで出てきて、不安ばかりが先行する。対策と言えば「うがいに手洗い」の話ばかり。確かに「うがいと手洗い」は必須であることは、わかっているが、Society5.0やスマートシティ、テクノロジーで未来を拓くと言っている割には、打つ手がないのだろうか?テレビで手の洗い方を何度も見ていると、戦争中「竹やり」で敵兵を倒す訓練をしていたという母親の話を想い出して仕方がない。
ネット社会だから、情報の伝搬速度は瞬時であるし、不特定多数の不安情報も駆け巡っている。新型ウィルスよりも不安が日本中に蔓延し始めている。日本人の特徴として、協調性が高いと言われるが、逆に言えば“流されやすい”とも言える。トイレットペーパーや冷凍食品を買い漁っている話も聞く。風評被害も発生している。政府には精度の高い情報を確実に伝えて、不安をかき立てることのないことをお願いしたい。デジタル社会だからこそ透明感のある情報が流せるのではないだろうか。
最後に、この新型ウィルスの影響でガラガラになった電車に乗る子供たちの無謀さと勇気と未来にエールを送って!
令和2年3月1日