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 水墨画を習い始めた彼女がいた。若いころから絵画のセンスはあった。聴けば退職する前に基礎を覚え、後は水墨画の世界に浸りたいという。また、別の知り合いの女性も絵を描く。こちらは美大出身の本格派である。事務所のお客様にも絵を描く経営者は多い。音から入る人もいる。音楽が物事を認識するための触覚となっている人がいる。私の家内がそうである。

私はといえば、子供の頃から絵も音楽もだめ、活字人間である。活字中毒といってもよいくらいである。しかし、文字が上手なわけでもなく、文字を読むことから物事の認識をしている。
したがって書籍は、数えたことはないが相当数持っている。コロナ感染症の拡大によって、最近では本屋さんに行くことがほとんどなくなった。書籍の購入はすべてネットで注文している。

そして今、注文した書籍が届いた。早速、本を取り出しワクワクしながらページをめくる。数ページ読んだところで、アッと気が付く「また、やってしまった!」すでに購読したはずの本を買ってしまったのである。こんなことが何回もある。

こういう時の落胆は、結構大きいものがある。記憶力は良いほうだと思っていたが、最近は物忘れがよくある。お客様との打ち合わせの時間を間違えたり、来客の予定を忘れたりする。特に何かの仕事に集中しているときに、いわゆる”飛んでしまう”ことがある。
加齢による認知症?(そもそも認知症という言葉はあまり好きではないが)いずれにしても記憶力の低下は間違いなく進んでいる。

そこで、単純な私は、書棚から記憶に関する本を探し出す。その中に、数字を覚えること。地名を覚えること。お経を覚えること等々。それを繰り返し繰り返し声に出したり、紙に書いたりすることで記憶力のアップになると書かれている。
例えば、アメリカ合衆国の50州の名前や円周率の小数点以下100桁まで、あるいは般若心経262文字を覚えること等々書かれていた。

般若心経は、そらんじていることから、円周率=π100桁にトライしてみることにした。
円周率は、無理数であり無限小数であることから、循環しないで少数が無限に続いていくものである。クラウドを使って31.4兆桁まで数えた技術者の記録があるらしく、その先にも無限に続いている円周率である。覚えること1時間。ここからは、何も見ないで円周率を書いてみる。3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209・・・。56桁が今のところ限界である。

事務所のパートナーである女性に何気なく「円周率を覚えているんだ!」と言ったら、「それが何かの役に立つの?もっと、ひとさまの役に立つことを覚えた方が良いのでは?」と、一蹴されてしまった。けんもほろろである。しかし、残り44桁を覚えるべくこの稿を書き終えたらリトライするつもりである。

コロナ感染症拡大でどこにも出かけられないこのゴールデンウイークの間には、100桁が暗唱できるようになっていることを願って。何の役に立たないことでも、ただひたすら自分の記憶力への挑戦としてやってみよう!ついでに円周率の記憶のギネス記録を調べてみたら、最高は11万桁数であるとのこと。言葉が出ないくらいの記憶力である。それにしても人間の頭脳はそこまで優れているのかと思いつつ100桁で充分満足してしまう私である。

令和3年5月1日

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