黎明
朝、白い息と共に東の窓を開ける。冬至を過ぎて10日ばかりであるが、黎明が早くなっている。昨夜偶然に見た流れ星の方向に眼をやる。願い事を唱えることができなかったから、今からつぶやいてみる。“今年も無事に過ごせますように”これで気が済むのだから簡単なものである。窓越しに早朝からジョギングをしている人が見える。明らかに外国の人である。
そういえば、最近はこの街でも外国人に出会うことが多くなった。コンビニでも外国人の店員さんが働いている。聞くところによると、海外からの留学生でアルバイトをしているとのこと。職業柄すぐに頭の中で反芻している。「在留資格は、“留学生”週28時間までの就労なら許可されている」お客様の企業でも外国人の就労が増えてきている。昨年末には、連日のようにマスコミに報道された「入管難民認定法」の改正があった。
私どもの業務の性質上、法改正には敏感になっているが、今回の改正の早さには正直驚いた。我が国の根本的なデザインの部分の改正であるにもかかわらず、あまり議論もなく成立してしまった。少子化は避けることのできない現実として進行しており、生産労働人口はどんどん減少していく。今の国力を維持するには外国人の労働力に頼らなければならない。それは、おおいに理解できる。しかし、本来ならば、30年後・50年後この国をどのような国家形態にしていくのか?そういう大前提の議論があって、この国のデザインを決めていく。その過程なしに、物事が決まり法律が改正されていく。
昨年末12月に浜松・静岡で県の委嘱を受けて介護施設向けの「改正入管難民認定法」の講義、今月中旬にも沼津で実施予定である。入国のハードルが下がり、多くの外国人が入って来られるようになる。説明すればするほど、不安が増長していく。受入体制は大丈夫なのか?過酷な労働条件ではないのか?
辛い思い出が甦る。私の住む街 浜松では、平成3年の頃から日系ブラジル人が製造業を中心に増え始め、ピーク時には19,000人もの人が浜松市内で住み、働いていたものである。しかしながら、平成20年のいわゆるリーマンショックにより浜松の製造業も減産体制に入り、日系労働者の人員削減が行われた。希望に燃えて浜松に仕事を求めてきた日系ブラジル人労働者に対して、浜松市をはじめ多くの受入企業がブラジルへの帰国費用を負担し、帰国させたことは、今思い出しても非常に苦い経験であった。こちらの都合で来てもらい、こちらの都合で帰っていただいた。法改正により実質、多文化共生社会の黎明期が始まった我が国であるが、こちらのご都合主義だけは避けてもらいたいと思う。世界の多くの国々は、多文化共生社会であり、すべてに多様性が存在する社会構造になっている。
ダイバーシティともいうが、性別・国籍・考え方・生き方・宗教・価値観等々多くの多様性が主張されている社会である。この多様性を無視すれば、おそらく企業は、組織は取り残され、衰退の方向に向いていくだろう。けっして上から目線の雇用であってはならない。今回の法改正が我が国に真の意味でのダイバーシティを構築できるかの試金石となることは間違いないだろう。近い将来私の事務所にも外国の方が働けるような環境を考えなければならないと年頭にあたり思う。
アスカ総合事務所
理事長 岸本敏和