東雲の空
冬至をとうに過ぎたのに、日の出が遅い。
勘違いをしていたことがあった。冬至は、一年でいちばん昼間が短い日。だから、冬至を過ぎれば夜明けが早くなると思っていた。いつの頃から、冬至よりも1週間ぐらい前のほうが陽の暮れが早いことは気づいていたが、あえて調べることもなかった。朝焼けより夕焼けが好きな私は、日の出時刻よりも日没時刻が気になっていた。
しかし、早朝の薄明りの中、寒さをこらえて朝陽を見ることに快感を覚えた私は、自宅近くにある小さな湖沼を目指して、林の中を行く。山道を登り下りしながら、湖沼を目指す。ひと気のない山道は、まだ薄暗く風の音や木々の軋む音にビクッとする。木の葉が舞い落ちた山道は、油断をすると足元を取られる。慎重に下りたいのだが、臆病な私は誰か後ろから迫ってこないか、時折振り返りながら足早に降りて行く。
家を出たのが昨日より遅い。日の出に間に合わない。少々焦りながら湖岸に着く。対岸の林の上に、雲があるが日の出はまだのようである。やがて雲の上から空の色が薄紫色になり、やがて薄紅色に、そして緋色に変わっていく。オレンジ色と言ってしまえばそれまでだが、この黎明の空の色は何というのだろう。考えながら待つこと数分。太陽が顔を出してきた。思わず手を合せる。謹賀新年、新しい年の始まりである。
さて、今年はどんな年になるのであろうか?昨年もいろいろな出来事があったが息災で越えることができた。昨年は多くの場所で、デジタル時代の変化にどう対処するのかなどの話をしてきた。今年は、“5G元年”という年になるとの話も聞く。我々の業務もお客様の仕事も大きな転換点を迎えている。1歩じゃなくても半歩でも前を目指したい。
今年の干支は子年である。繁殖・繁栄の干支とも言うらしい。株価も高値になり経済も活発化するという統計もある。しかし、私の脳裏には12年前の出来事が甦る。米国の住宅融資であるサブプライムローンの破綻が引き金となり、米国の投資銀行リーマンブラザーズホールディングスが経営的に行き詰まり、連鎖的に世界金融危機が発生したいわゆるリーマンショックがあった年である。
12年後の現在はというと欧米市場を中心とするリスクの高い企業向けのレバレッジドローンの危うさが見えてくる。米国大統領選挙の結果次第で、金融政策が引き締められる可能性も高い。英国のブレグジットも世界経済にどのような影響を与えるのか。中国の台頭や東南アジアの発展からも目を離せない。一触即発の中東情勢もある。
東京オリンピックで内需に沸く我が国ではあるが、オリンピックが終焉した後は、どうなるのか。皆目予想がつかない。そういう世相の中で、どのように歩いていくのか?走っていくのか?考えれば考えるほど頭の中がコンフューズしてくる。
こういうときは、日本人の特性に期待しよう。年末にクリスマスで盛り上がり、大みそかでお寺の除夜の鐘を聞いて、元旦には神社に参拝する。一週間であれもこれもの国民性である。今更、神頼みでもないが、八百万の神の我が国である。海の神・山の神・地の神・空の神・森の神・水の神などすべての神に手を合せ、感謝の念で今年も年を越えたい。感謝さえ忘れなければ今年も何とかなるだろうと難しいことは忘れて単純に割り切ってしまう。
東雲の空が陽光輝く朝陽に変わっている。歳神様を迎えるために門松を飾った我が家に戻ろう。昨年1年間の皆様のご厚情に感謝しつつ、本年も何卒宜しくお願いしますとの思いを込めて湖畔を後にすることにしよう。
追伸:東雲は“しののめ”と読む。先ほど何という色か判らなかったが、東雲色(しののめいろ)というらしい。あらためて日本文化の奥深さに触れた。
令和2年1月1日