2026年5月『風薫る五月、物語を旅する方法』
私には、天の邪鬼のところがあって、子供のころより課題が前にあると、肝心な課題はさておいて、異なることに眼が向いてしまう傾向がある。業務に関係する書籍や学校での課題書籍やらに眼を通さないといけないなかで、今回も天の邪鬼が出てきてしまった。(まあ、これは天の邪鬼というよりは、現状からの逃避であろうが。)
そこで、束の間の時間に、一冊の本に眼がいった。「空」とか「青」という言葉が好きな私は、タイトルだけで飛びついてしまった。それは『空、はてしない青』という物語である。著者は、メリッサ・ダ・コスタというフランスの作家である。この本は、若年性アルツハイマーと診断され、余命2年を宣告された26歳の青年エミルが、SNSで募集した見ず知らずの女性ジョアンヌと共に、キャンピングカーでフランスを旅する物語である。
読み始めて、すぐに思った「地図を広げようと」。物語の序盤、主人公のエミルとジョアンヌは、フランスとスペインの国境に雄大にそびえるピレネー山脈の麓を目指す。 作中には、彼らが立ち寄る小さな村や、キャンピングカーを走らせる道の様子が、実に細やかに描写されている。
そこで私は、ノートパソコンを開き、Googleマップに彼らが向かうであろう村の名前を入力してみた。画面に現れたのは、衛星写真に写る、山々の深い緑に抱かれた小さな村であった。さらに「ストリートビュー」機能に切り替えると、まるで自分がその場に立っているかのような感覚で、360度の風景を見渡すことができる。石造りの家々が並ぶ素朴な街並み、教会の尖塔、曲がりくねった細い道。 ページをめくりながら、主人公たちが歩いたであろう道を、私も画面上で一緒に辿っていった。
彼らが車を停めて眺めたであろう山の稜線、川のせせらぎが聞こえてきそうな橋の上、そして、物語のタイトルにもなっている、どこまでも広がる青い空。文字情報から想像していた風景が、実際の映像として目の前に広がることで、物語の世界がぐっと立体的になり、圧倒的なリアリティを持って私に迫ってきたのだ。
この体験は、単に物語への没入感を深めただけではなかった。登場人物たちの心情を、より深く理解する手助けにもなったように感じる。
私たちは、ともするとテクノロジーを無味乾燥なものと捉えがちである。しかし、使い方一つで、このようにアナログな読書という行為を、より豊かで感動的なものに変えてくれる力を持っているのだと、今回の体験を通して実感した。
本を読むという行為は、著者と読者の共同作業によって、読者一人ひとりの中に唯一無二の世界を創り上げることだと私は考えている。 想像力という翼を広げることはもちろん、時にはテクノロジーの力も借りながら、物語の世界を自由に旅してみる。そんな能動的な読書の楽しみ方も、また一興ではないか。
風薫るこの季節、お気に入りの一冊を片手に、自分だけの素敵な旅に出てみてはいかがだろうか。
2026年5月1日

photo by kishimoto

