この街、この国


陽が長くなった。夏至が近い。住む街が一望に眺められる高層階のホテルのラウンジにいた。
高度が高いせいか、沈む夕陽が遠くまで見渡せる。橙色に輝く飛行機雲が幾筋も交差している。
それまで“はば”をきかせていた青空が、肩身を小さくして橙色の中に隠れていく。その橙色もやがて
夜色に呑みこまれていく。だからしばし、この景色を眺めていたい。

♪にじむ街の灯を、ひとりみていた~♪ 突然ある歌詞が脳裏に流れる。植田正樹の「悲しい色やね」である。原曲は♪ふたりみていた~♪である。これにかこつけて「寂しい街やね」“ひとりみていた”と口ずさんでしまったのであろう。

なぜ、このフレーズが浮かんできたのか?この街をみていたら、急に寂しく切なさを感じたのである。夜色の幕が降り、街の灯りがともり始めた頃、こんなにこの街は暗かったのか。もっと明るい夜景が広がっていたような気がした。だから、♪にじむ街の灯を、ひとりみていた♪と勝手に口ずさんでしまったのかもしれない。

こんなときは、ウイスキーのロックがいい。蝶ネクタイのウエイターにお願いする。
私は、いわゆる団塊の世代より少し遅れてきた世代である。小学校の頃手にするおもちゃなどは、“メイドインUSA”や“メイドインイングランド”が高嶺の花であり、“メイドインジャパン”は、粗悪品の代名詞であった。

しかし、その後は数多くの家電製品や自動車等が製品の質やコストで世界を凌駕しはじめ、いつのまにか“Japan as Number One”と云われ。私たちは、少し上の世代の人達から、「日本は戦争に負けたが経済戦争では勝った」などと言われたものである。とにかく海外の優秀な製品をコピーし、マネて真似て作り、その中からオリジナルなものを創り上げてきた。Made in Japanが最高だと信じてきた。

Made in KoreaやMade in Chinaといえば、どちらかというと上から目線でみてきた。いわゆるコピー、粗悪品。それは我が国が通った道と同じであるのだが、そんなことは忘れていた。いつの間にか、彼らは世界の主流製造国に躍り出てきているのである。世界製造業競争力ランキングの中で、トップは中国、米国、ドイツの順で日本は4位である。

しかし、僅差で韓国・インドが追走しており、逆転にはそんなに時間はかからないであろう。Made in Japanの名に胡坐をかいていた日本が完全に世界から水をあけられようとしている。
GWに開催された北京国際モーターショーでは、EV自動車がその主役であり、世界はその方向に一直線で進んでいる。

もちろん我が国の大手メーカーも出展しているが、EV自動車の世界でリードできるのか?また、EV自動車が主流となることにより産業構造は大きく変わる。ガソリンエンジンの部品は20,000点、それに対してEVモーターの部品は100点。この窓からみえる自動車メーカーの下請企業群はどうなってしまうのであろうか?

また、それらを取り巻く関連企業群はどうなるのか?自動車企業城下町のこの街は?そこで働く人たちは?にじむ街の灯が煌々と輝く灯となることができるのか?政治家は、企業家はどう対処していくのであろう。この街を衰退させたくない。浜松を元気にしたい。それは皆の想いであろう。
平成30年6月1日

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