2023年10月「ムラサキシキブ」

「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」突然にこの言葉が浮かんだ。

一昨日は、”中秋の名月”しかも満月であった。その満月を見上げたときこの芭蕉の言葉が脳裏をよぎった。中秋の名月が満月になるのはこの先2030年になるそうである。だから、余計に感じたのかもしれない。まさに”月日は百代の過客にして“であり、今年もまた10月が巡ってきた。

遠い記憶の中に、読書を強制されたことがある。10月の”読書週間”の頃であった。

小学校3年生のときに担任の先生から母親に「キシモト君は、全く本を読まないからマンガの本でもよいから読ませてください」と。そのときから母親は、バカ正直にも毎週発刊される”週刊少年漫画雑誌3冊」を私に渡した。マンガは面白くて、毎週の発刊日が楽しみになった。しかし、私はそれ以外の本は読もうとはしなかった。

 しかし、6年生のとき中学に通う近所のお兄ちゃんが「難しいかもしれないが面白いよ」と貸してくれたのが「奥の細道」であった。確かに難しいものではあったが、この本は私を知らない世界に連れて行ってくれた。根が内向的な私は、ここから本にのめりこんでいくことになる。以来今日に至るまでどのくらい読んだのか?昨年、郊外から街中に引っ越ししたときには、2000冊程処分をしたが、まだ事務所と自宅にあるものを足せば相当な数になる。

 だからといって、私の頭の中は、どんどん忘れていく構造になっており特段知識が増えているとは思わない。読む本といえば、仕事に関する実務書や経営関連が多いが、小説等もよく読む。最近は、今まで絶対に読もうとしなかったハードボイルド小説にはまりはじめた。北方謙三氏の本である。彼の小説は、”男が男だった時代”の話である。現在とは程遠い世界の話である。いくつになっても男はこういうものに惹かれるらしい。

 もうひとつ絶対に読もうとしなかった本に「源氏物語」がある。ご承知のように清少納言と並ぶ平安時代中期の女流作家紫式部の長編小説である。読んでもいないのに、軟弱な物語だと思って敬遠してきた。しかし、海外22か国で出版され多くの評論がなされているという。「京都に観光に行くなら、読んでから行け!」とも言われているという。おまけに来年のNHK大河ドラマの主人公は、紫式部だという。

 外圧と世間体に弱い私は、それなら読んでみようかと思う。光源氏をめぐる様々な人間関係、今でいうセクハラ・パワハラやイジメ、虐待、葛藤、愛憎が渦巻いている世界。なにかしら、業務に参考になるかもしれないと俗物的に考えてしまう。

 庭に佇む「ムラサキシキブ」が、もっとピュアに「源氏物語」を楽しんで!」と、言っているようにも聞こえる。

2023年10月1日

photo by kishimoto